逆問題の考え方
正月に帰省中,地元の書店で購入。
- 作者: 上村豊
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/12/19
- メディア: 新書
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逆問題とは何か
- 順問題において安易な問題設定をしていないか?
- 誤差に対する鋭敏性
- 厳密な計算で得られた答えが現実的に認められない
- 順問題でわかりにくかった困難が浮かび上がっただけ
- 逆問題の要求
- 解が存在するか(解の存在性の保証)
- 解が同定可能か(解の一意性の保証)
- 誤差鋭敏性が小さい(解の安定性の保証)
解が不能と成る場合はどんな場合だろうか?
- 逆問題の解決のステージ:同定(一意性)問題=>再構成法=>解の安定性=>解の存在
- 再構成法:解の存在を暗黙に仮定する意識による呼称
プランクのエネルギー量子発見
- エントロピーは無秩序性を意味し,共鳴子の振動がその振幅と位相を交換する規則の中に見出すべき
海洋循環逆問題
- 無流面の速度(基準速度)が分かれば,海洋循環の速度場はニュートン力学による順問題として求まる
- トレーサーの観測データから基準速度を求めるのは逆問題
逆問題と連立一次方程式
- 過剰決定系と不足決定系
- 連立一次方程式を満たす解は一般には存在しないが最小自乗解は常に存在する
- 最小自乗解は一般には一つには定まらないが長さを最小にする最小自乗解は一つに定まる
- 長さを最小にする最小自乗解はムーア・ペンローズ逆行列から求まる
逆問題のジレンマ
- 最小特異値と最大特異値の比を条件数として,データのゆらぎに対する解のゆらぎの目安
- 条件数が大きい=悪条件
- 第一種フレドホルム積分方程式について特異値分解を行うと特異値が無限に得られ,0に近づく
- この時条件数は発散し,データのゆらぎに対する解のゆらぎも発散する
- たちが悪い
- チホノフ正則化による非適切問題の適切問題への近似
モロゾフの食い違い原理に必要な誤差の見積もりはどうやって行う?
現実には解があるという哲学,ではどのような解を許容するか?
量子散乱の逆問題
- ハイゼンベルグのS(散乱)行列だけではポテンシャルは同定できない
- ポテンシャルの同定には,散乱データとしての(透過率,束縛状態のエネルギー,規格化定数)が必要
- 散乱データとポテンシャルは一対一に対応する
- 逆散乱法により,ポテンシャルの初期分布(=初期解)が与えられれば任意時刻のKdV方程式の解が求まる
- 散乱データの時間発展は解析的に得られる
- 散乱データを経由することによりKdV方程式の解の時間発展を追う必要はなくなる
- 散乱データ中の「束縛状態のエネルギー」はS(散乱)行列の透過率s_{11}(k)の極に対応し,ソリトンの時間発展に対し不変である
散乱データの規格化定数が束縛状態における電子波の裾野の広がりを表すとは?
最後に
- 模索から生じた仮説を,仮説に基づく逆問題を解くことで法則・原理として見出す
- 相対論的量子力学の逆散乱と海洋循環逆問題が関連するが次回の機会に。。
感想
一冊で逆問題を概観し,最小自乗解とその正則化および誤差鋭敏性抑制の仕組みまで解説してくれて「お得」感がある。量子散乱の逆問題の概要は本書で初めて知ったが,KdV方程式の時間発展を数値積分を回避できるのは恩恵が大きい。唐突にダジャレがでてくる。