妻を帽子と間違えた男

妻を帽子とまちがえた男 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

妻を帽子とまちがえた男 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

先週に書店で購入。以前読んだ本で”純真・双子の兄弟"のエピソードが引用されていたので興味があった。

主題は,病気で自分のアイデンティティを奪われた人がどのように戸惑い,そして病気と戦い自分の世界を取り戻していくかであり,彼らの内面で何が起きているかについても述べられている。ありがちな「驚異のエピソード集」ではなく,単なる症例記録でもない,その両面を備え,かつ人間精神の科学的理解にも踏み込もうとしている。
面白かった話としては,ショスタコーヴィチ,ドストエフスキーは精神面で特異な作用を持っており,創作活動に資することができたというところ。
また,物事を考えたり論じたりする際に必ず現れる2つの領域;量や形式を問題にする物理的な領域と,質を問題にする現象的な領域は自然科学でも問題となりうると思った。

また,算定的な見方を図象的な見方の比較として,算定的な理解をいくら積み重ねても図象的な理解には到達できないという話では,部分の総合が全体に一致しない例を思い出した。

  • 喪失・体のないクリスチーナ
    • 第六感としての固有感覚=脳内の身体マップ
    • 固有感覚を失った患者が視覚でおぎなう
  • 移行・抑えがたき郷愁
    • 人間は人格の拠り所となる幼い頃の記憶を渇望する
    • 病変によってその渇望が満たされたとき,病気=不幸の図式は一概に正しいと言えない
  • 純真・双子の兄弟
    • 簡単な四則演算もできないが,数に対して高度な判別能力がある双子
    • 数を「数える」のではなく数に対する視覚的なイメージがある
    • 彼らには素数はどのように「視えて」いるのだろうか